さぶの部屋 1
             
               
                 唯一気に入っている自分で書いた絵
  
             
さぶの仕事 1

翻訳


1)『フランス・ルネサンス文学集 1 学問と信仰と』 2015年3月(白水社)¥6,800

 これが最後の翻訳の仕事だと思う。宮下志朗、伊藤進、平野隆文の仏ルネサンス3人組の編訳のもと訳者の
 一人として加えて貰い、ベルナール・パリシーを担当した。畏友平野隆文の急逝という悲しみを越えて出版に
 こぎ着けた。白水社の芝山さんにとっても最後の仕事だったようだ。山本義隆の『一六世紀文化革命』を合わせ
 読んで貰えば、この時代がどれほどヨーロッパにとって転機であったのかが実感を伴って理解できるだろう。


2)『罪と恐れ』J. ドリュモー、2004年12月(新評論)¥13,000

 畏友佐野泰雄を主幹として江花、大久保、寺迫の諸兄と一緒に苦労して仕上げた翻訳。ドリュモーはアナ−ル
 学派に属するが、わたしにとっては『ルネサンス文化論』(La civilisation de la Renaissance)で馴染みの
 博覧強記の人。これは13世紀から18世紀にかけてヨーロッパの主としてカトリック圏でどのような宗教的
 共同心性が醸成されていたかの膨大なあとづけである。5人で何度か集まって仕事したことが懐かしく思い出さ
 れる。司牧術とはよく言ったもので、教会がどのように信者たちを導いたのか、罪障感を植え付けることによって
 迷える小羊を産み出し続けたその本質が明らかにされる。高いが、買って損はない。

3)『われわれと他者』T.トドロフ、2002年1月(法政大学出版局)¥6,800

 小野 潮(中央大学文学部)との共訳
 トドロフものは法大出版局の叢書ユニベルシタスの看板のひとつかと思うが、これはその中でも大著のひとつ。
 お鉢が回ってきて取りかかったものの、扱う対象の広さもそうだが、議論の俎上にのぼる思想のどれをとっても
 やっかいなものばかり。途方にくれていたところ後輩の小野君が幸いにも北海道に赴任してきて、一緒にやること
 になった。彼のフットワークの良さとここぞというときの集中力で出来上がったようなもの。彼に深謝。まあこの
 本はモンテーニュ以後、つまりヨーロッパにとって新たな他者がぞくぞくと登場してきた時代、他者認識がどう
 変化してきたかという歴史的な総括がメインだが、根本テーマは冷たい構造主義に「モラル」をいかに対置させ
 るかではないかと思う。ともかく値段からしても売れそうにない本だが、異文化交流とかはやりのテーマを扱う
 際にもけっこう役立つと思うので、みなさん図書館に購入希望を出してください。
 
 
4)『重合』 カルロス・ベーネ/ジル・ドゥルーズ、1996年5月(法政大学出版局)¥2,000

 中身は、ベーネの『リチャード三世』とドゥルーズの『マイナー宣言』。『重合』というタイトルで損をしている?
 帯の惹句は「伝統的な文学の支配機制をすり抜ける二つのテクストの《重合》が、人間の欲動に解放と交通の可能性
 をひらく。」と格好良いが、欲動など本当に解放されてしまったらどんなことになるかは、シュールレアリスト達の
 実験で死にかかった連中がいたことを考えれば、想像するだにおぞましい。まさにその「おぞましさ」を現出させる
 ことが『リチャード三世』の目的だろう。商大演劇戦線あたりが取り上げてくれれば面白いのだが。この作品は亡き
 花田圭介先生に薦められて取り組んだが、刺激的な仕事だった。これを翻訳していたときつねに念頭から去らなかっ
 たのが、F. ベーコンの絵 Van Gogh in a landscape 57 だ、たぶんこれも神経を直にゆさぶる《重合》の典型だ。
 花田圭介先生も皆の記憶からどんどん薄れて行っていることだろうから、先生と僕の《重合》も紹介しておこう。
 花田先生は広島でピカに兵士として遭遇、鶴見俊介などと戦後の思想の地平を切り開いた一人だが、定年まで北大で
 過ごす。大学紛争世代には忘れられない存在だが、しばらく北海道被団協(北海道原水爆被害者団体協議会)の代表
 を務められたこともおありだ。僕はまさにその広島生まれ、叔母が一人被服廠で抹消されたし、物心ついたころから
 「ピカ」の話しを聞いて育った...... ともかく面白いから買って読んでください。
 
5)『ペルシャの鏡』トーマス・パヴェル、1993年3月(工作舎)【プラネタリー・クラシクス】\1,800

 「ルーマニア出身の学生ルイは、古い修道院蔵書の中で発見されたライプニッツの知られざる弟子アロイシウス・カ
 スパールの手稿に魅せられる。「実体とは鏡自体をも映し出す凹面鏡のようなものではないか」―。アロイシウスの
 ライプニッツへの問いが、ルイを「可能的世界」の迷宮に連れ出して行く…。ライプニッツの迷宮をめぐる幻想哲学
 小説。」というのが宣伝文句。いやーこれはまさに「迷宮」小説。時空を超えて平行成立する可能世界を旅すること
 になればどんなことになるのか?異端審問あり、ナチス支配下のスパイ活劇もどきあり、いやはや訳してても混乱し
 てしまう、でもウンベルト・エーコの『バラの名前』が好きなひとは読んでください。
 
6)『言語の夢想者―17世紀普遍言語から現代SFまで』マリナ・ヤグェーロ、1990年10月(工作舎)\3,200
   [LES FOUS DU LANGAGE : Des langues imaginaires et de leurs inventeurs]〈Yaguello, Marina〉

 谷川 多佳子さんとの共訳、ともかく処女翻訳ということもあって、文体にも凝りながら楽しくも熱心にした仕事。
 これはもう宣伝文句にすべてがつくされている。

 ヨーロッパ言語思想史をふりかえると、文字通り狂人のように言語に憑かれて、完全無欠の理想言語の創造とその普及
 に命を賭けた人々が登場する。普遍言語の虜となったデカルト、ライプニッツ、チョムスキー、奇天烈な空想言語を
 考えだしたシラノ・ド・ベルジュラック、ブルワー・リットン、ジョージ・オーウェル、霊媒となって異界の言語を
 とめどもなく話し始めたエレーヌ・スミス、スターリン体制下でマルクス主義言語理論を打ち立てたニコライ・マール…。
 本書は、人工言語の迷宮にさまよいこんだ彼ら“言語の夢想者”の系譜を通して、言語に潜む神話、夢、狂気を説き明かしていく…。

 序章 言語への愛
 第1部 神話からユートピアへ
 第2部 17〜20世紀の言語思想史
 第3部 言語にまつわる幻想の両極にむけて
 第4部 自然言語の擁護と顕揚
 巻末資料(人工言語主要作品一覧―言語思想史年表;人工言語文献資料集)